聖霊降臨の祝日

炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった (使徒言行録2・3より)

聖霊降臨
黙示録挿絵
ドイツ バンベルク国立図書館 11世紀初め

 聖霊降臨の場面を描く図である。それぞれの画像要素がはっきりしている。天から突き出している半円の光輪(三層で、各層とも色のグラデュエーションになっている)は父である神の次元を示すもので、そこから鳩が真下に降りてくる。また12本の光の放射がある。使徒たちの12人と対応する。画面下の部分の12人の使徒は、各頭上に炎が記されている。
 このような描き方の典拠は、もちろん、きょうの第一朗読箇所である使徒言行録2章1-11節にある。その「五旬祭の日が来て、一同が一つになって集まっていると、突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった。すると、一同は聖霊に満たされ、“霊”が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした」(1-4節)。「炎のような舌」が使徒たちの頭の上にあり、それが聖霊に満たされたことのしるしであるところから、天からの聖霊降臨の様子、半円の光輪、鳩、光の放射といった要素で描き出していることにある。上の部分の背景は青い色、これは聖霊の満ちている次元の意味だろう。そして使徒たちの生きる地上世界だが、輝かしい金色で満たされている。神の栄光が地上を覆い、満たしているということの表現である。
 使徒たちが抱えている本は、宣教のことばを象徴している。中央側の二人の使徒が一つの本を持っているところには、ここに福音があること、神のみことばであるキリストがいることを示しているのかもしれない。そうすると、この絵の中心には父と子と聖霊の三位一体、そして使徒たちの横の一致が交差して描かれているともいえる。ただ、使徒たちは、この出来事に驚いている節がある。互いに顔を見合わせて、何事が起こっているのか、と心の声で言っているようである。それはこの絵のユーモラスなところで、ここにまさしく神のみわざがあることを逆にあかししているようでもある。
 使徒言行録2章1-11節は、聖霊降臨をイエスの復活から五十日目の歴史的出来事として述べているが、このことを絵とともに味わうと、単にそれが一時の出来事ではなく、キリストと使徒たちをはじめ教会がいつも聖霊によっていること、信者の使徒的活動の原動力が聖霊であることを再認識することができる。この関係性を説き明かすのが、聖霊降臨の主日の福音朗読箇所である。
 今年B年の福音朗読箇所であるヨハネ15章26-27節、16章12-15節はまさしく、そのような聖霊の存在と働きを語っている。ここで、イエスは、「わたしが父のもとからあなたがたに遣わそうとしている弁護者」(15・26)として「真理の霊」、すなわち聖霊を語る。「弁護者」はギリシア語の原語「パラクレートス」に従って直訳するなら「そばに呼ばれた者」となり、あなたがた(使徒たち、信者たち)の近くにいて助ける方、今日的にいえば寄り添う方として、聖霊を示す語である。「真理の霊」という語も難解だが、ヨハネ福音書で、真理とは、実質的にはキリストを意味しており(ヨハネ1・17「恵みと真理はイエス・キリストを通して現れたからである」参照)、またギリシア語の真理(アレテイア)には、真理の覆いを外して明らかにするという意味合いがあることを考えると、真理であるキリストを明らかにし、人々に悟らせるという聖霊の働きが表されている。朗読箇所の後半で、「その方、すなわち、真理の霊が来ると、あなたがたを導いて真理をことごとく悟らせる」(ヨハネ16・13)と述べられるのは、まさにその働きである。「悟らせる」に注目するとき、この絵が天からの光の放射という形で聖霊降臨の意味を表していることも理解できる。使徒たちの心を照らす、聖霊は、まさに光だからである。
 ちなみに、きょうの福音朗読の内容は、堅信の儀のときの祈りの中の「今、この人々の上に助け主である聖霊を送り、知恵と理解、判断と勇気、神を知る恵み、神を愛し、敬う心をお与えください」ともよく響き合う。「助け主」と訳されているのは「弁護者」のことで、知恵と勇気以下は、イザヤ11章2節「知恵と識別の霊、思慮と勇気の霊、主を知り、畏れ敬う霊」がもとにある、いわゆる聖霊の七つの賜物を語るところである。これらを通じて「弁護者」であり「真理の霊」である聖霊の働きが十二分に語られていることになる。
 このような聖霊の賜物が注がれ、宣教に向かおうとする使徒たちの姿は、洗礼・堅信を通して、同じ聖霊を受けている我々の姿をも表すものと受けとめなくてはならない。この聖霊の働きを我々自身のうちに生き生きと感じながら、宣教の使命についての黙想を深めていこう。

 

参照 : オリエンス宗教研究所 https://www.oriens.or.jp/st/st_hyoshi/2024/st240519.html